『自転車が街を変える』秋山岳志(2012)集英社新書

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管理者Sの読書録 #8

自転車は「オルタナティブ・トランスポート」になり得るか?

クルマにも歩行者にも邪魔者扱いされている「ミソっかす」から、交通の主流へと躍り出る潜在力。それを引き出すことが、自転車社会の構築に向けて我々に課された使命なのだ。

秋山岳志(2012)『自転車が街を変える』

観光研究において自転車は、2つの側面から注目を集めています。第一は、カーボンフリーなる言葉に表象される持続可能な交通手段としての側面。第二は、「身体性」の伴う観光経験が享受できるモビリティーとしての側面。第二の側面に関しては、人文社会系の観光研究者を中心に議論されている内容で、『観光のまなざし 第3版』の著者である J. ラースンも、「Bicycle Mobilities」として、その潜在性についての研究を発表しています。本書『自転車が街を変える』は、この中でも特に第一の側面に焦点を当てた一冊です。本書では、わが国で自転車社会を構築する際に生じると思われる課題点とその改善方法について、イギリスを中心とする他国との比較を通した考察がなされています。僕自身、学部時代はサイクリング部に所属していたこともあり、本書の内容に共感できる点が多くありました。自転車と他の交通および歩行者間における道路「シェア」の問題、自転車走行が全く想定されていない都市部の交差点、名ばかりの「サイクリングリード」の問題等は、僕も自転車を漕ぎながら感じていた話です。また「レンタサイクルを利用するたびに私は、運営する自治体なり会社なりの担当者が果たして自転車に乗ったことがあるのか、しばしば疑問を感じてしまう」との指摘は的を射ていて、観光地に必ずと言って良い程あるレンタサイクルマップは、往々にしてただ線を引いただけの代物で、利用者の視点は捨象されている向きがあります。近年、サイクルツーリズムの推進が国を挙げて取り組まれていますが、まだまだ課題は山積しています。

本書最大の良点は、自転車社会構築の可能性について、短時間でサクッと読める分量にまとまっている点に集約されます。他方で、著者の主観と思しき記述が目立つこと、イギリスに関するページが多く割かれているが結局は著者の体験記の枠を超えていないこと、当時の流行り言葉—「オルタナティブ」「シェア」「ダイバーシティ」など—を散りばめただけの観が拭いきれないことなど、個人的にはもう少し深い内容が欲しかったところです。ただ、コロナの影響でより自転車への注目が集まっている現代社会では、本書から得られるヒントも多くあると思います。行政や観光協会の方々は一読してみてはいかがでしょうか。

『自転車が街を変える (集英社新書)』(秋山岳志)の感想(8レビュー) - ブクログ
『自転車が街を変える (集英社新書)』(秋山岳志) のみんなのレビュー・感想ページです(8レビュー)。作品紹介・あらすじ:エコ、健康志向、低成長時代の価値観の変化、そして災害対応。これらの要因が合わさって、昨今、都市部を中心に自転車利用者・愛好者が急増している。一方で、クルマと自転車のみならず、自転車と歩行者の事故も頻...
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