『自転車利用促進のためのソフト施策』古倉宗治(2006)ぎょうせい

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管理者Sの読書録 #12

自転車利用活性化の可能性を根本から問い直す

本書『自転車利用促進のためのソフト施策』は、そのタイトルにある通り、自転車を通じたまちづくりの可能性について「安全性」「迅速性」「快適性」の3つの項目を軸に、欧米諸国における諸政策とを比較しながら、自転車社会構築に際してのソフト面充実に関する示唆を提示する内容になっていた一冊です。また本書の前提に、わが国における自転車保有率や都市圏における自転車の都市交通分担率が欧米諸国と比肩していること、すなわち自転車社会構築の潜在性があるという点に立脚して、論が展開されていました。著者が霞が関の官僚出身ということもあり、全体を通して法律構文の如く読みにくい印象でしたが、わが国における諸政策やアンケート結果が首尾良くまとめられており、自転車利用促進のための基礎研究として極めて意義ある一冊であったと思料します。

本書においてとりわけ強調されていた点は、次の3点です。まず第一に、個々人・企業・商業施設を含め自転車利用において得られるメリットを、その対象ごとに明確に発信していくことの必要性です。それは単に、環境保護につながるというような曖昧な内容を発信するのではなく、どれだけの節約につながるのか、どれだけの経済効果が生まれるか、だれだけの健康効果があるかなどの具体的な数字を国民に提示していくことが重要であると指摘されていました。第二に、自転車を自動車と同様、もしくはそれよりも優遇することの必要性が説かれていました。これは、自転車利用にインセンティブを与えることを通して同手段利用の活性に結実させるとの目的と、強い権利をサイクリストに付与することでサイクリストとしての責任を自覚させられることの2つの目的が意図されているようです。第三は、自転車における車道走行の徹底化です。わが国における自転車事故の大半が、ドライバーの死角となる交差点横断歩道における歩道からの自転車飛び出し、および同場所における出会い頭によって生じていますが、これはサイクリストが「裸の王様」のごとく歩道を走行しており、彼/彼女らの注意力が散漫としていることに起因すると著者は言います。したがって、自転車走行を歩道から車道へ移すことができれば、ドライバーの見落としが減退するほか、サイクリストも緊張感を持って走行できるために自転車事故が減少するとの行論になっていました。かかる3点は排他的な事項ではありませんが、いずれにせよ、諸種のデータを多用してこれらを何とか説明しようという著者の努力が垣間見えました。

他方で、本書の行論があまりにも「期待値」頼りだった点は、少し鼻につきました。例えば、経済的なインセンティブを与えれば、あたかも全員が自転車を利用するかのごとく論じる行論には疑問を呈さざるを得ません。「これだけのデータが揃っているから(データそのものも局所的なものが多かった)、国民はこう行動するだろう」という仮説の中で論が展開され、諸種の提言がなされていたため、少々行論が飛躍しすぎている観が否めませんでした。また、本書の軸が都市住民を想定して論が展開されており、私のような地方住みの住民は蚊帳の外のごとく論が進んでいたのも残念だった点です(著者は福島市や宇都宮市などの地方都市を引き合いに出してはいたが)。例えば、自転車利用によって買い物回数が増えるとの指摘ですが、(机上の)理論的には確かにそうですが、とりわけスーパーから離れた場所に住む地方住民にとっては、何度も何度も買い物に行くのは面倒ですし、そもそも少量の買い物のために貴重な時間をかけることは効率的ではありません。また通勤で自転車が使用できるのも都市住民だけであって、地方都市などの郊外に住む住民は範疇に入っていません。他にも、色々と突っ込みたくなる点が多かったですが、いずれにせよ、「我が国」なる言葉で国民を一括りにし、仮説の下で議論が展開されていたことが本書最大の課題点であったと感じます。

ただ本書が、学位論文をもとに執筆された一冊ということもあり、自転車社会構築のための基礎情報はかなり充実していたと思います。諸種、勉強になりました。

『自転車利用促進のためのソフト施策―欧米先進諸国に学ぶ環境・健康の街づくり』(古倉宗治)の感想(2レビュー) - ブクログ
『自転車利用促進のためのソフト施策―欧米先進諸国に学ぶ環境・健康の街づくり』(古倉宗治) のみんなのレビュー・感想ページです(2レビュー)。この作品は15人のユーザーが本棚に登録している、ぎょうせいから2006年12月1日発売の本です。
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