『成功する自転車まちづくり』古倉宗治(2010)学芸出版社

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管理者Sの読書録 #13

政策面から見た「自転車活用型のまちづくり」実現への提言

自転車の利用促進のための目的が最初であって、自転車利用の促進は、目的に合わせて設定すべきものである。多くの自転車政策は、これをはきちがえている。健康の増進や環境負荷削減が目的にならねばならないのに、自転車利用を盛んにすること自体が目的のように取り扱われ環境や健康は、単なる利用促進をする理由になっている。自転車政策は自転車利用を高めることが目的ではなく、これにより何を実現したいかが重要である。通勤、通学での環境負荷のない手段を提供すること、健康増進、子育て推進など、用途や目的で、自転車利用のインセンティブを与えることが自転車政策であるといえる。

古倉宗治(2010)『成功する自転車まちづくり』

本書『成功する自転車まちづくり』は、著者の前著『自転車利用促進のためのソフト施策』の内容をかなり嚙み砕いて著された一冊です。僕が前著で感じていた「期待値に基づく記述」や「地方を捨象した記述」はかなり後景していたほか、前著に比してかなりまとまりがよくなっていた印象です。とりわけ地方に関する記述については、同距離の場所を移動するにしても都市圏に比して車利用の割合が増えることを前傾して論じているほか、自転車と他の交通機関(徒歩を含む)との役割分担、使用のメリハリをつけることの重要性も指摘されていて、全体としてより説得力のある行論であった観がしました。また本書では、「環境教育の重要さ」「地域活性化やサイクルツーリズムへの示唆」「日本国内の自転車政策の歴史」「施策策定のための具体的なプロセス」等が付記されており、分量は少なくなっていましたが、内容としては前著よりも充実していたものと思料します。

他方で、著者における問題意識の根底は、以下のように前著と概ね共通した部分がありました。

自転車という最も環境にやさしい交通手段との競合の方を問題視して、自転車利用の促進を抑制するような見解があるとすれば、正論ではない。近距離でも利用が極めて多い自家用車との競合に対して、きっちりとした対応や方策を取らずに、環境に最もやさしい自転車との競合を取り上げて、その利用促進を抑制する、または、自転車と公共交通との調整と称して、公共交通を優先するとする考え方があるとすれば、この地球温暖化対策が世界的な規模で問題にされている中で、適切とはいえない。むしろ、自家用車の利用から自転車と公共交通への転換の強力な方策、および自転車利用を促進した場合の公共交通との連携の方策をいかに講ずるかの点に調査や研究、そして施策を集中すべきである。

古倉宗治(2010)『成功する自転車まちづくり』

著者は、放置自転車の問題や交通ルールを守らないサイクリストなど、ネガティブな面を取り上げてばかりいるわが国の行政のあり方に疑問を呈することを立脚点に、そのことが自転車利用の促進の足枷になっているのであれば、より体系的な研究を通して、真に自転車利用が負の側面しかないのかを検討すべきであると指摘します。前著では、かかる点にかなり腐心してデータの収集・検証をしていましたが、本書ではその内容が簡潔にまとめて提示されていました。なおかかる点に関しては、終章⑵「わが国の自転車政策のあるべき方向性」で具体的な提言とともにまとめられています。

本書の良点は、「サイクルツーリズム」への示唆がなされていた点です。著者は直接には「サイクルツーリズム」の語を使用していませんが、「自転車による回遊レクリエーションに必要な条件」や「非日常的な移動は、7~8km程度が多くの人の限界距離となっている」など、具体的な数字が提示されており、今後の観光政策における1つの指標になり得るものと感じたところです。なお、これは著者も指摘していますが、近年ではサイクルツーリズム振興が「目的」と化しており、結局それを通じて何が得られるのか(ほとんどが曖昧模糊な経済波及効果に収斂される)が不明瞭なものとなっています。ましてや、サイクリストに対する世間の眼差しも、未だに「邪魔者」として扱われている現状があり、そうした現状とサイクルツーリズムの推進というのは明らかに相矛盾するものに映じます。結局は、しまなみ海道成功の横展開が全国で実施されているだけであり、それが真に中身があるのかは不明です。サイクルツーリズムそのものが目的化しないよう、かかるツーリズム振興で「何を実現したいか」を真剣に議論すべきだとは思います。

『成功する自転車まちづくり―政策と計画のポイント』(古倉宗治)の感想(8レビュー) - ブクログ
『成功する自転車まちづくり―政策と計画のポイント』(古倉宗治) のみんなのレビュー・感想ページです(8レビュー)。作品紹介・あらすじ:家計と健康に優しく、地域活性化・低炭素化に貢献する自転車だが、「歩道上が安全」「利用促進は違法駐輪を増やす」といった固定観念からか、総合性やバランスを欠く施策が多い。そこで世界の最新政策...
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