『サイクルツーリズムの進め方』藤本芳一・輪の国びわ湖推進協議会(2019)学芸出版社

Blog

管理者Sの読書録 #14

サイクルツーリズム推進のための実践マニュアル

日本では、以前から駅やその周辺にレンタサイクルを用意し、シティサイクル(いわゆる「ママチャリ」)を用いて観光地をめぐってもらっていた。徒歩で回るには広すぎる数kmの範囲に観光スポットが点在する場所で、それらを回るための手段として自転車を提供してきた。しかし今日言われるサイクルツーリズムは、長距離走行に適した比較的高価なロードバイクやクロスバイク、マウンテンバイクなどのスポーツバイクや、電動アシスト自転車を使用し、そのコースの趣旨によるが、走行距離も十数キロから数百キロに及ぶ。自転車で走ること自体が目的のひとつであり、走りながら地域の自然や歴史、文化を味わうということに特徴がある。

藤本芳一・輪の国びわ湖推進協議会(2019)『サイクルツーリズムの進め方』

本書『サイクルツーリズムの進め方』は、20の小項目を軸に、いかに地域でサイクルツーリズムを進めるべきか、その具体的な実践内容が記された一冊です。近年、広域DMOを中心に大流行りのサイクルツーリズムですが、往々にしてサイクルマップを書いただけの取り組みが管見され、また実走していないことが明白なモデルコースも散見されます。しまなみ海道の成功を見て、「とりあえず、うちでもやっておこう」という曖昧な気持ちで取り組みを始めている自治体も少なくないものと思料します。ただ、そういった中途半端な気持ちで事業を始めると、ハード事業整備だけのハコモノ行政で終わってしまう、サイクリストに悪印象を与える、ひいては事故負担等で自分の首を絞めることにも繋がりかねません。実際2016年には、「ビワイチ」走行中のサイクリストが側溝とアスファルト部の段差にタイヤを取られて大怪我を負い、滋賀県側が当人に対して129万1782円の賠償金を支払うという事故も起きています。道路管理者に責任が課される現代社会にあって、中途半端な事業開始は禁物でしょう(なお近年は、自転車保険加入を義務付ける地域が増えている)。本書は、自転車特有の事項を中心に据えながら、いかにサイクリストに優しい観光地を形成していくべきかの手引きが記されていました。

本書においてとりわけ興味深かったのは、サイクルツーリストの分類で、上級者から「長距離・スピード重視」「観光サイクリング指向」「観光のついでにサイクリングを楽しむ層」の順に項目づけていた箇所でした。本書によると、まず上位の2層を地域に取り込み、彼/彼女らによる口コミでの拡散が、サイクルツーリズムの持続的発展に結実すると言います(cf., Leiperの階層モデル)。実際、サイクリストの多くがSNSの情報に頼っているというのは、経験者の僕も身に染みて感じていることですので、感覚的には理解できます。ただ、初心者のサイクリストがかかる情報をキャッチできるかというのはまた別の問題のような気もしますし、客観的なデータが存在するわけでもありません。

またこれは根本的な問題ですが、長距離サイクリストによる地域への経済効果は極めて僅かです。本書においても、景観の良い場所を提供すべき、モニュメントを設置すべきなど、経済波及効果のない(かつてのマスツーリズムを彷彿とさせる)「写真を撮って終わり」「行って終わり」を促す政策を呼びかけていますし、「見学に長時間を要する施設はサイクリング途中のスポットとしてはあまりふさわしくない」など長時間滞在はサイクルツーリズムに不釣り合いであることが示唆されていました。また本書では、「多くのサイクルツーリストは1日100km程度の走行距離を望んでいる」などと記述していますが、1日100kmも走るとなると、その地域に流れるお金は極めて微少になることが容易に想像され、またその大半がコンビニ等の全国チェーンに流れることは目に見えています。やはりサイクルツーリズムというのは、行政が税金でハード整備をして進めるだけの見返りはないというのが、本書を通した僕の感想です。

『サイクルツーリズムの進め方: 自転車でつくる豊かな地域』(藤本芳一)の感想(3レビュー) - ブクログ
『サイクルツーリズムの進め方: 自転車でつくる豊かな地域』(藤本芳一) のみんなのレビュー・感想ページです(3レビュー)。作品紹介・あらすじ:あなたはサイクルツーリズムと聞いて何を連想するだろう。しまなみ海道をゆったり走るレンタサイクルの人たち。地元の名物を楽しむグルメツアー。多くの人が参加するサイクリング大会。サイク...
タイトルとURLをコピーしました