管理者Sの読書録 #16
ビジネス・コンサルタントの経験を活かした事業運営と観光地づくり
私たちは、きっかけがあって、年収や所得という尺度以外の価値に目を向け、自分たちが模索を始め、動き続けてきた結果として現在の姿にたどり着きました。思い通りにいかなかったことや創造と現実に乖離があることはもちろん色々とありましたが、全てを手に入れようとは思わずに、自分たちの現状を受け容れる「足るを知る」感覚を持つことさえできれば、地方部でのライフスタイルを実現することは可能なのではないかと思います。
山田拓(2018)『外国人が熱狂するクールな田舎作り』
本書『外国人が熱狂するクールな田舎づくり』は、著者の山田拓氏が、岐阜県飛騨古川(飛騨市)で経営してきた「美ら地球」の「Satoyama Experience」事業の歴史を振り返る、彼の自叙伝となった一冊です。山田氏は、観光地域づくり系の界隈では超有名人で、国からの肩書きもいくつか持たれている凄腕のプレイヤーです。「凄腕のプレイヤー」と書きましたが、本書では、彼が様々な壁にぶつかりながらも「笑顔」で困難を乗り切ってきた、努力のプレイヤーとも取れる記述が多く管見されました。地域の会話に入り込むのに(「愛想笑い」「蚊帳の外」などの記述あり)10年かかったと書いていますが、よそ者として過疎地域で事業を興し、安定した事業経営の軌道に乗せるのはかなり大変なものであったと思料します。
山田氏に限りませんが、海外経験を積んだUターン者は、多分な潜在性を持たれているなと感じます。アストロツーリズムの文脈においても、近年ではニュージーランドのテカポでガイド経験のある方々が、日本帰国後にツアー事業を興し、今や「テカポ型」とも言える形態でのツアーが全国展開されています。海外経験のある人々が、日本国内の観光地で実践的なプレイヤーになっていることは間違いありません。やっぱり、海外旅行をしなきゃなと強く感じたところです。
他方で、本書を読んで痛感したのが、国が求めるこれからの「観光人材」についてです。山田氏は海外のビジネス・コンサルタント出身です。現況の地域DMOでも、電通やリクルートなどコンサル系出身者が舵を取っている事例が増えています。無論、ビジネスマーケティングに熟知した彼/彼女らがマネージャーになるのは極めて重要ですが、観光系大学が、即戦力・実践力を求める彼/彼女らの下請け的存在にならないかは不安ではあります。山田氏のようなコンサル系出身のプレイヤーの話を聞く度に、これからの観光教育・観光研究の行く末が気にかかるところです。旧体質的な大学の「知」のあり方も、今後は変えていかなければならないのかもしれません。
