『実践する自転車まちづくり』古倉宗治(2014)学芸出版社

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管理者Sの読書録 #17

自転車社会構築に向けた具体的な政策提言

自転車を活用した観光は、来訪する人にとっても、また、市民にとっても貴重な自転車学習の場である。すなわち、普段自転車に乗ることがない人や同じコースを繰り返して走行している人に、観光地で日常から離れ、解放された場で可能であれば質の高いレンタサイクルの安全快適な利用を通じて自転車のよさを体験してもらうことができる。(中略)そして、これらの自転車による貴重な体験が、観光から自宅に帰った後の自転車利用を促進し、また、観光での自転車体験を通じて幅広く伝播して、日常での自転車利用の安全かつ快適な利用につながること、これらが全国に広がっていくことが、自転車による観光の意義をより高めるものと理解している。

古倉宗治(2014)『実践する自転車まちづくり』

本書『実践する自転車まちづくり』は、著者の前著『成功する自転車まちづくり』の内容に立脚し、かなり具体的な政策提言を試みた一冊になっています。僕自身、古倉先生の著書を読むのは、これが3冊目になります。これまでの著作同様に、諸種のデータを駆使しながら論を展開しているのはさすがだなと感じたところです。また、高齢化社会を見据えた提言や安全教育に踏み込んだ政策など、前著までには見られなかった内容にまで言及していた点が大きな特徴かと思います。イギリスがロンドンオリンピックに合わせて「オリンピック記念自転車道」と「自転車スーパーハイウェイ」を新規建設していたのは驚きました。

また本書では、サイクルツーリズムに関しても1章設けられていて、かなり具体的な提言がなされていました。前著までと同様に、本書でも著者はターゲットのニーズに則した政策を講じるべきことを論じていますが、サイクルツーリズムに関しては、ターゲットを「ハイユーザー(50km以上/日)」「ミドルユーザー(10~50km/日)」「ローユーザー(10km未満/日)」に分類し、また観光形態も「参加型(イベント型)」「観戦型」「コース設定型」「ツアー型」「企画型(サイクルトレインなど)」の5つに区分し、それぞれの需要に応じた政策を講じるべきことが指摘されていました。ターゲットの3区分は奈良県の議事資料からの抜粋で、これが全ての地域に該当するとは考えにくいですが、1つの指標としては参考になるかと思います。

他方で、僕が専門とする観光の話題で見ると、著者のいい加減な記述が目につきました。とりわけ「~と考えられるので」など、著者らしからぬ、根拠のない推論をもとに論が組み立てられているのは看過できません。なお観光の文脈に限らず、本書では総じてかかる傾向がありました。また本書の出版を急いでいたのか、誤字脱字がかなり気になりました。また「表6-5」では、和歌山市と高岡市が複数記述されるなどの基本的なミスが管見されます。前著の内容が良かっただけに、さすがに残念としか言えません。学芸出版社は、著者の原稿をきちんと推敲しているのかが疑わしくなってきます。

終りに、著者が前著まで指摘してきた「通勤5km論」ですが、これは「1日」に許容できるのが5kmであって、「片道」5kmに議論をすり替えていないかが、少し疑問に思えてきました。表5-2は「日常的に自転車で行ける限界距離」であって、決して「一度に移動できる距離」ではないことは特記すべきでしょう。前著まででも、片道5kmまで許容できるかのごとく記述していたので、注意が必要であるものと思料します。

『実践する自転車まちづくり: 役立つ具体策』(古倉宗治)の感想(5レビュー) - ブクログ
『実践する自転車まちづくり: 役立つ具体策』(古倉宗治) のみんなのレビュー・感想ページです(5レビュー)。作品紹介・あらすじ:国交省、警察庁の画期的なガイドラインが出てから2年、自転車利用施策の現場は大きく様変わりしてきた。そこで本書では、ガイドラインの活用法、ネットワークの形成の仕方、新しい駐輪場の考え方、高齢者利...
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