『進化する自転車まちづくり』古倉宗治(2019)大成出版社

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管理者Sの読書録 #19

海外の事例から日本国内の自転車政策を考える

我が国では、自転車観光は、サイクリストを主たる対象として、より多くのサイクリストを集めるためのコースの設定やイベントの実施などが主流である。これにより、多くの人が訪れたり、参加申し込みが殺到するので、これで自転車観光は満足すべき水準にある又は成功しているなどと理解している向きも多いと思われる。それはあくまでもイベントやコースについての話である。(中略)大多数を占める一般の観光客に対して、自転車観光を推進するのでもなく、したい人があればレンタサイクル等を用意しますので自転車観光をしてください程度のニュートラルなスタンスの観光が多すぎる。わが町の優れたところを最も小回りが利き、広範囲に有効に回遊できる大きなメリットを持つ自転車を推奨して、本当に自転車にしか味わえない観光をして来訪者に喜んでもらうという意識や意気込みを前提とした自転車観光を組み立てるべきである。

古倉宗治(2019)『進化する自転車まちづくり』

本書『進化する自転車まちづくり』は、ドイツ、デンマーク、アメリカなどの海外における自転車まちづくりの事例紹介を中心に、いかに日本国内で自転車社会を構築していくべきかに焦点を当てた一冊です。とりわけ、執筆された前年に『自転車活用推進法』が制定されるなど、国が本腰を入れて自転車政策に着手し始めたこともあり、今後の自転車社会構築に向けてのちょうど転換期と把捉して執筆されたものと思われます。なお本書は400頁を超す大著です。僕は古倉氏の著作を読むのがこれで4冊目で、且つこの大著ですから、これまでの研究の総まとめであろうと期待して拝読しました。が、正直なところ、期待外れでした。

確かに勉強になった箇所はいくつかありました。『自転車活用推進法』では、サイクルツーリズムを通した「観光立国」の実現を目標として掲げていること、また当該法律では自治体に対して自転車活用の推進に関する努力義務が課されていることなどは、本書を読んで初めて知りました。サイクルツーリズムの推進と自転車活用の推進にかかる努力義務が同時に定められているということは、すなわち日本全国でサイクルツーリズム「らしき」ものが今後展開されていくことを意味するでしょうし、ますます地域間競争が激しくなることが予想されます。あくまでも観光は手段として把捉すべきという著者のスタンスは支持しますし、サイクルツーリズムを掲げて観光振興を目指しているDMOなどは、早期に方向転換すべきだと思います(なお著者らが行ったアンケートによると、各自治体における「自転車活用推進計画の予定・検討項目」では、「自転車を活用した観光の取り組み」が最も高いスコアを示していたという)。

他方で、あまりにも本書の内容が冗長すぎます。本書冒頭で「類似した表現が繰り返し出てくることがあります」と留保してはいますが、あまりに度が過ぎていますし、分量もこの半分に出来たろうと思います。また著者の指摘が論理破綻している、というか他人を批判する前にまずは自分の著作を見直した方が良いと感じた箇所が、いくつもありました。例えば著者は、日本の自転車計画が「総合計画型的」なものが多く、また「施策ごとの優先順位などがほとんどない」と指摘していますが、読者の誰が、本書で著者が言いたい「優先順位」を理解できたでしょうか。本書そのものが「総合計画型的」です。市民に読んでもらえるような計画を立案せよと指摘する前に、まずは本書の構成を見直すべきでしょう。また、政策の模倣は横並びに繋がると声高に主張しながら、本書の大半が事例紹介で占められていますし、海外の事例をもっと参考にすべきと指摘しながら、本書の結論と「思われる」第5部では(延々と読まされた)第1部・第2部の内容が加味されているとは思えない行論です。さすがに、読んでいてイライラしました。

終りに、著者の指摘が著作ごとに少しずつ変化していること、また自転車社会の構築が著者の感情論的な行論になりつつあることを取り上げておこうと思います。まず、前回のレビューで取り上げた「通勤5km論」ですが、本書では「3km」にすり替わっていました。誰かに指摘されたのでしょう。これまで散々、(何の根拠もなしに)国民にインセンティブを与えれば自転車使用の分担率が上昇すると指摘してきた一方で、本書では、結局米国で自転車の分担率が上昇しなかったことを示唆しています。また、これまでの著書では、歩道での自転車事故が多いと指摘してきた一方で、2016年時点では車道・歩道ともにほぼ同じ結果で落ち着いています(本書では「相対的に低い割合」と表現を変えているが、もはや誤差の範囲である)。「自転車事故のデータをしっかりとみる」との項を付していますが、著者がもっとしっかりデータを読み取って議論すべきです。加えて、電気自動車の導入、最近では電動キックボードの導入が進み、もはや自転車の旨味が減退しつつある一方で(環境問題・経済問題が一部解消される)、そのアンチテーゼとして化石燃料を使用する電動自転車の導入を呼びかけていたのは、さすがに残念としか言えません。もはや自転車利用に拘泥しすぎていて、何でもあり、感情論のようになってしまっていて、苛々を通り越して可哀そうにも思えてきた次第です。

『進化する自転車まちづくり-自転車活用推進計画を成功させるコツ-』(古倉宗治)の感想(1レビュー) - ブクログ
『進化する自転車まちづくり-自転車活用推進計画を成功させるコツ-』(古倉宗治) のみんなのレビュー・感想ページです(1レビュー)。作品紹介・あらすじ:自転車を活用してより質の高い生活ができる都市や地域を作るために!自転車活用推進法に基づく自転車活用推進計画をより実効性のある魅力溢れる計画とするために、長年にわたり自転車...
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