『創造の方法学』高根正昭(1979)講談社現代新書

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管理者Sの読書録 #20

社会科学における定量研究の入門書―因果論から「方法学」を確立する

われわれが現実に行っている認識は、われわれの持つ概念に導かれて、絶えず変化する経験的世界の一部を、辛うじてつかまえるという仕事なのである。その意味で「”概念”がなければ”事実”もない」ということが出来るのである。人間の認識の過程は、まことに主体的かつ積極的な過程であると言う他はない。(中略)この概念の修正、さらには新しい概念の創出こそ、人間の知的創造にとって、きわめて重要な働きなのである。

高根正昭(1979)『創造の方法学』

本書『創造の方法学』は、著者のスタンフォード大学およびカルフォルニア大学での留学体験をもとに、わが国の社会科学でなおざりにされてきた定量研究の方法論の重要性を説いた一冊です。本書が執筆された当時の国際的な論調は、定性研究と定量研究のいずれが「科学的」かという、方法論をめぐる揺籃期にあった一方で、わが国では、ひたすらに欧米諸国の理論を紹介する研究が盛んになされていました(今もその観は否めませんが)。理論紹介の一辺倒で、「創造性」のないわが国における社会科学に一石を投じるべく、「方法学」の確立を企図して執筆されたのが本書です。留学経験および日本での学生運動の体験など、著者の経験を事例に描かれていたため、とても読みやすい一冊でした。

本書最大の主張は、研究フレームを構築する際に「従属変数(結果)」と「独立変数(原因)」を図式的に明確化すべきという点に収斂されます(著者は「因果関係」なる言葉を用いている)。「独立変数」と「従属変数」を取り結んで「説明」するものが「理論」であり、それを経験的な事実や現象(本書では「作業定義」)に置き換えて「仮説」を立て、「検証」することを通して、既存理論の精緻化や新理論を創出していく。かかる「検証」の作業が、まさしく「方法学」であり、理論と方法を循環させていくことが科学の「創造力」であると、著者は指摘します。

理論構築法のなかで中心を占める原則が、すでに紹介した因果関係の推論における、三原則なのである。すなわち⑴独立変数の先行、⑵独立変数と従属変数の共変、⑶他の変数の統制(パラメーターの確立)の三原則なのである。

高根正昭(1979)『創造の方法学』

「従属変数」や「独立変数」の言葉から看取されるように、著者の主眼は定量研究を通して理論構築を図ることにあります。鬼門は「パラメーターの確立」で、自然科学ならいざ知らず、人間社会を考察する社会科学において、全ての情況を揃えられるだけの環境(「統制群」)は整備できないものと思いますが、コンピュータが導入されたての当時においては、定量研究は画期的な手法だったのでしょう。本書の難点はまさにこの点で、あらゆる事象に「従属変数」と「独立変数」を組み込みすぎていて、論理展開に若干の無理が生じていたように感じました。まあ、「従属変数」と「独立変数」の概念を用いて、方法論を「説明」することが著者にとっての「理論」なのでしょう。

他方で、本書で最も勉強になったのは以下の図で、われわれが認知できるものは、われわれの「経験」によって構成されるもので、そうして認知できるものを言語化し、説明する道具が「概念」ということになる。ただこれはあくまでも低次なもので、より精緻に一般化できるものが「理論」になる。言い換えると、われわれが認知できる経験的な「事実」と既存の抽象的な概念を突き合わせて、「残余カテゴリー」をなくしていく試みが、すなわち「理論」構築であるということです。研究する際はあまり難しく考えすぎず、一旦はこうした図式化の作業を通して、現状の概念(理論)によって照らされている「事実」は何かを把捉していくことが大切なのだと感じたところでした。

高根正昭(1979)『創造の方法学』より
高根正昭(1979)『創造の方法学』より
『創造の方法学 (講談社現代新書)』(高根正昭)の感想(92レビュー) - ブクログ
『創造の方法学 (講談社現代新書)』(高根正昭) のみんなのレビュー・感想ページです(92レビュー)。作品紹介・あらすじ:西欧文化の輸入に頼り、「いかに知るか」ではなく、「何を知るか」だけが重んじられてきた日本では、問題解決のための論理はいつも背後に退けられてきた。本書は、「なぜ」という問いかけから始まり、仮説を経験的...
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