『観光民俗学への旅』神崎宣武(1990)河出書房新社

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管理者Sの読書録 #38

「旅のクセ」に見る日本人のための観光論

いまこそ、日本人の「クセ」は何か、われわれ自身がそれを認識しなくてはならない…。そのうえで、国際的に理解が得られるクセとそうでないクセの分析をしなくてはならないはずである。そして、場合によれば、これはわれわれ日本民俗の「クセ」であり、かくかくしかじかの歴史的な背景をもつ文化というものであります、と堂々と語れなくてはならない。文化に優劣はない。あくまでも対等に語りあい、対等に理解しあうものなのである。それが、「国際化」の本意ではなかろうか。

神崎宣武(1990)『観光民俗学への旅』p. 208

本書『観光民俗学への旅』は、著者が参加した団体ツアー「小さな旅・台湾編」でツアーガイドを務めた黄秀蘭氏との交流をもとに、高度経済成長期における日本人の観光行動を、社会的・歴史的背景を踏まえながらエッセイ風にまとめた一冊である。土産物の爆買い、酒席に象徴される宴会、大浴場つきの温泉、旅先での売春など、一昔前まで当たり前とされていた日本人特有の観光行動を、「旅のクセ」というキーワードから、かかる行動様式が表出している歴史的背景について探っている。典型的な「日本人論」と言えばそれまでであるし、考察が不十分である向きも否めないが、「観光学」が未成熟な時期に著わされた一冊であることに鑑みると、良著ではないかと思う。また著者の神崎宣武氏における著書は、これまで管理者も何冊か読んできたが、一読する限り、それらの要諦をダイジェストにまとめた一冊として把捉できるものであった。

エッセイ風の一冊ではあったが、示唆を得た箇所がいくつかあった。特に、ツアーガイドにおけるコミュニケーションの取り方に関する記述は、大変参考になった。著者によると、他者に対する日本人の距離の詰め方は、往々にして、相手のプライベートを探ることから始まるという。

集団性とウチ意識―それが、団体旅行の隆盛やそのありかたにも少なからず作用しているのは、当然といえば当然のことである。…「お国はどちらですか」とか、「ご出身はどちらですか」と尋ねるのは、その相手を個としてとらえるのではなく、その所属社会を問うのである。個の氏素性よりも、そのウチなる社会の由緒が尊ばれるのである。

神崎宣武『観光民俗学への旅』p. 61

確かに、何気なくわれわれは、自己紹介の時に相手の出身地を聞くし、もとより名刺交換で自分の所属を明確にする。また、そう親しくない初対面の人でも「彼女はいるのか」と尋ねてくる人も多い。こうした日本人のコミュニケーションが、全て「集団性とウチ意識」に収斂されるものではないにせよ、われわれ特有の性質として把捉することは可能であろう。

ここで想起するのは、星空ツアーにおけるガイドの仕方である。すなわち、相手のプライベート部分に入り込んでからツアーを始めるタイプと、全く顧客のプライベートに触れないガイドがいる。一見すると後者の方が良いように思うが、案外に前者の方が人気があるし、自分も好きなタイプである。プライベート部分に入り込むといっても、ズカズカと土足で踏み歩くのではなくて、「どこからお越しになられたのですか」というような、軽いタッチから入るガイドである。ここで良い反応が返ってくれば、「お昼は何をされていたんですか」とか「もう夕食は取られましたか」などを聞いてあげる。そして、そうした相手の回答をもとに、ガイド内容を構成してあげる。何分、大衆化している現状のアストロツーリズムにおいて、天文や星空というのは、一般客からすると専門性が高すぎる。ただ天文の話だけでトークを展開しても、ひたすらに一方通行である。

しかし、あまりにも顧客のプライベートに立ち入りすぎると、彼/彼女らは気分を害する。日本人にとっての最も心地よいコミュニケーションの取り方、他者との距離の詰め方ができる人が、一人前のガイドであるといえよう。したがって、天文の専門性は以外に求められないというのが、現状の星空ガイドではないかと思うところである。星空ガイドにおけるコミュニケーションのあり方については、今後研究してみたいテーマの1つである。

終わりに、観光が大衆化した要因について、著者は旅行業の存在を挙げている(p. 195)。では、アストロツーリズムが「大衆化」した要因は一体何であろうか。現状を見るにつけて、明らかにこれは、旅行業による要因よりも大きなものが存するはずである。旅行業に依らない「大衆化」要因を探ることは、翻って、現状の「新たな観光」を可能にせしめている要因を探るのと同義になるものと思料する。ここにアストロツーリズム研究の意義があり、アストロツーリズムが観光研究の発展に寄与できるトピックであるものと考えている。

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