わが国における学校天文台の現状とその諸課題をめぐる調査研究

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プロジェクトメンバー澤田幸輝(和歌山大学大学院観光学研究科),鳴沢真也(兵庫県立大学自然・環境科学研究所),米澤樹(紀美野町立みさと天文台),富田晃彦(和歌山大学教育学部),尾久土正己(奈良県立大学)

調査の背景と目的

 天文学は、科学的宇宙観・自然観を醸成するための基礎的学問としての位置づけにある。学校教育における天文分野の比重は大きくないものの[1]、学習指導要領では初等教育から中等教育まで天文分野における系統的な学習方針が定められており、また平成29年の高等学校学習指導要領改訂では「見通しをもった観察、実験を行うことなどの科学的に探究する学習活動の充実」によって、理科教育の質的向上の必要性が謳われている[2]。天文分野における「見通しをもった観察、実験」のひとつの例は望遠鏡を用いた天体観測だが、既に多くの学校教育施設では組立て式の小型望遠鏡が保有されているなど、ハード面や施設環境面での充実が図られている。とりわけ天文教育に熱心に取り組んできた学校教育施設では、ドーム観測室や据付け型望遠鏡を有する施設(以下、学校天文台)があることも知られている(最近では、学校天文台を取り扱ったTVアニメ「君は放課後インソムニア」が放送されたことは記憶に新しい)。

 学校天文台の設置背景を探索的に議論した宮下[3]は、冷戦期を背景とした理科教育振興政策や高度経済成長を契機として、1950年代から60年代にかけて、学校天文台が多く設置されたことを指摘している。また、高等学校における天文関連施設の設備状況を調査した磯部ほか[4]によると、回答があった907校の内、670の高等学校が小型望遠鏡を有しており、また84の学校天文台があることが分かったという。他方で、現在の多くの学校天文台では、望遠鏡や各機材の老朽化、技術的支援を行う人材や機材修繕のための予算不足などに起因して、教育現場での十全な活用で苦労があることが推察される。

 かかる背景の中、天文台の利活用の状況や、学校天文台を運用するに当たっての課題点を明確化することは急務の課題であり、それは今後の持続的な運用方法についての検討のための重要な資料になるであろう。しかし、学校天文台に関する定量的・定性的調査はほとんど行われていない現状にあり(c.f.,[4][5])、その活用状況についても明確になっていない。以上の点に立脚し、本研究では、日本国内における学校天文台の設置背景、設置機材や天文関連器具の管理状況、学校天文台の活用状況、地学部・天文部やカリキュラムなど学校活動との関連、学校天文台運営に当たっての課題点等を明らかにすることを目的とし、学校天文台の持続可能な運用方法についての提言を試みる。

参考文献・資料

  1. 日本天文教育普及研究会(2020)「新学習指導要領高等学校理科『地学基礎』における天文分野の 内容再編・縮小に関する声明」最終閲覧日2024年2月2日
  2. 文部科学省(n.d.)「高等学校学習指導要領の改訂のポイント」最終閲覧日2024年2月2日
  3. 宮下敦(2008)「学校望遠鏡から大口径望遠鏡へ」『天文教育』20 (4),2-7.
  4. 磯部琇三・佐々木五郎・瀬尾秀彰・篠原信雄(1986)「高等学校とプラネタリウム館における天文教具に関するアンケート調査」『天文月報』79 (12),324-328.
  5. さんたさん@北の大地の天文指導員(n.d.)「北海道の天文台・プラネタリウムマップ」最終閲覧日2024年2月2日

調査の概要と計画

本研究では、日本国内における学校天文台の設置状況を分析するための定量的調査と、各施設の運用状況を分析することを目的とした質的調査の2つの手法をとる。第一の定量的調査は、国土地理院地図の空中写真を用いての調査を行う。具体的には、各都道府県が公開する公立小学校、公立中学校、公立高等学校、及び私立学校の空中写真を全て検索し、校舎屋上にドーム状の建物が視認できた場合に、学校天文台を有する施設と同定する。第二の質的調査では、定量的調査で同定された学校天文台を有する学校への質問紙調査及び実地調査を行い、可能であれば、関係者への聴き取り調査、施設内見、関連資料調査などを実施する。

学校天文台調査研究の2024年度計画

調査の途中経過は以下をご参照ください!

学校天文台調査の途中経過(工事中)
プロジェクトメンバー:澤田幸輝(和歌山大学大学院観光学研究科),鳴沢真也(兵庫県立大学自然・環境科学研究所),米澤樹(紀美野町立みさと天文台),富田晃彦(和歌山大学教育学部),尾久土正己(奈良県立大学...